「自転車にはじめて乗れるようになったときのことを覚えていますか。それまでは、何の支えもなく二つの車輪だけで立っているということが、あり得ないことのように思えて、ああ倒れてしまうと思った瞬間に、倒れるということを何度も繰り返したに違いありません。 発達の課題を抱えている状態は、自転車に乗れないときの状態に似ていると言っていいかもしれません。たとえば、人とやりとりするのが苦手な人にとって、それが難なくできる人を見ると、自転車に乗れない人が、自転車を軽々と乗りこなしている人を見るように、うらやましさや挫折感を抱かせます。みんなができることを自分ができないと思うと、情けなく思えることもあるでしょうし、自分には到底あんなことはできないと思ってしまうかもしれません。 しかし、何かの拍子に感覚を体得して乗れるようになると、何だこんなことかと、克服できてしまいます。どうしてできるようになるかというと、脳に新しい回路ができるからです。その回路を何度も使ううちに、自動的に働くようになります。そうなると、自転車をこいでいることなど忘れていても自転車を乗りこなせるようになってしまうわけです。」 これは、当センターの顧問、岡田尊司著『子どものための発達トレーニング』の冒頭部分からの引用ですが、発達の課題とは何かを理解していただくうえで、少しヒントになるかもしれません。 もっと幼い頃に、誰もが立ち向かう一つの大きな発達課題は、二本足で立って歩行することです。考えてみれば、これは自転車に乗れるようになる以上に、至難の業だと言えるかもしれません。最初は、綱渡りをするような危ういバランスを取りながら、何度も何度も挑戦して、やっと感得できるわけです。みなさんは、その試練を乗り越え、脳に必要な回路が出来上がっているので、当たり前に歩いていられるわけです。 できる人から見れば簡単なことですが、できない存在からすると、絶望的なくらい大変なことなのです。多くの課題は、多少時間がかかっても乗り越えられるわけですが、ただ問題は、脳は年齢とともに硬くなり、回路ができにくくなっていくということです。十八歳から二十歳くらいには、脳は一旦完成し、出来上がってしまうのです。 逆にもっとも神経系の発達が盛んなのは、やはり幼児期です。十五歳までは、まだ大きな可塑性があると言えるでしょう。つまり、ある意味、時間との勝負なのです。できれば、少しでも早い時期に、トレーニングをした方が、課題を乗り越えやすいのです。 |
このように、発達面からすると、とても大切な幼児期・児童期なのですが、その時期を無駄にしてしまっていることが、現実にとても多いのです。せっかく相談や診断を受けているケースでも、ただ診断しただけ、相談しただけで終わっていることも少なくありません。それでは親の気休めにしかなりません。 療育やトレーニングを受けている場合も、実際に利用できる療育やトレーニングのレベルは、まだまだ低いのが現状で、大学病院でさえも、一部を除くと、かなりお粗末な状況です。ましてや身近な機関となると、ちゃんとした発達トレーニングと呼べるものは少なく、きちんとした専門家が、本人の課題を踏まえて用意した個別のプログラムで、療育、トレーニングを受けているケースは、残念ながらまだ少数です。特に、課題が軽度なお子さんほど、専門的な手当てを受ける機会もなく放置され、逆に遅れや課題が残ってしまうという“逆転”もみられます。 療育を受けていたお子さんも、小学生になると、その対象から外れてしまい、せっかく取り戻しかけていた発達が停滞してしまうこともあります。医療機関を受診しても、不注意や多動といった表面的な問題行動に対して投薬されるだけで、肝心な発達の課題には何の手当もされないということが、むしろ当たり前になっています。しかし、それは、問題にただ蓋をするようなもので、いましかできない、根本的な改善のチャンスを永久に失ってしまうことになりかねません。 小学生、中学生になってから、ようやく発達の課題に気づくというケースも、いまだに少なくありません。二〇二〇年に予定されている入試改革にも示されているように、今後、社会的スキルやコミュニケーション能力が、いっそう重視される方向に変わっていこうとしています。発達に課題をかかえたお子さんにとって、それは、より厳しい状況を意味します。今後、社会で生き抜くうえ、目先の受験学力など、さらに通用しなくなるでしょう。お子さんが社会に出たときに困らないためにも、根本にある課題を、タイムリミットが来ないうちに、少しでも克服しておくことが大切に思えます。 |
多くのお子さんが発達の凸凹をもっています。ある程度の凸凹なら、単なる個性で済ませられるわけですが、偏りが非常に強いと、それが学業や職業選択、社会適応の制約やハンディとなってしまうのが実情です。偏りが強く、ある面での課題のために生活に著しく支障をきたした状態を「発達障害」と呼んでいるわけですが、障害というほどではない場合にも、学業や生活、対人関係の面で、困難をもたらしやすいと言えます。その困難を小さくし、乗り越えていくうえで、まず大切なのは、お子さんの特性や課題について、まずよく理解することです。そこで大事なのは、すでに診断されている場合にも、診断名にとらわれすぎないということです。 診断名というものが、お子様のすべてを表しているわけではないのです。診断名は、その子の一番課題となる部分だけを反映しているということが多いのですが、中には、その子の現実の課題と、あまりぴったりとはいえない診断名がついてしまっているという場合もあります。 診断名も、次々と変わったりして、専門家の間でも、かなり混乱しているという現状もあります。同じ診断名でも、その子の抱えている課題は、一人一人かなり違います。診断名という縦割りのカテゴリー(分類)とは関係なく、課題がまたがっていることの方が普通です。 発達のトレーニングを行う場合に大事なのは、診断名ではなく、その子一人一人が抱えている特性や課題です。ですので、診断名ごとにトレーニングを考えるというのは、その子の実態に即していないのです。ベースにある課題を、もっと細かく丁寧に把握し、それに応じたプログラムに取り組んでいくことが求められるわけです。 たとえば、自閉スペトクラム症と診断されている子どもさんでも、表情の読み取りが比較的問題なくできる子もいれば、まったくできない子もいます。注意力の低下がある子も、ない子もいます。ADHDという診断名がついている子でも、処理速度が低い場合と、逆に高い場合もあります。視覚・空間認知が優れている場合もあれば、劣っている場合もあります。一くくりにしては、到底その子の課題に応じたトレーニングにはならないのです。言語理解、視覚・空間認知、ワーキングメモリー(作動記憶)、処理速度など、ばらつき方は一人一人違います。 学習障害についても同じです。耳から聞いて覚えるのは問題ないけれど、読んで覚えることができない子もいれば、読んで理解することは得意だけど、文字を書くことが極めて苦手という場合もあります。計算は得意だけど、文章題がまったくできない子もいれば、一問一答式や選択式の問題なら答えられるのに、文章を自由に書いて答える感想文など、死ぬほど嫌いという子もいます。 こうした課題を改善するためには、その子がどの情報処理の部分に困難を抱えているのか、さらにベースの部分の課題を把握する必要があるわけです。学習障害の原因が、ワーキングメモリーが低いために起きている場合もあれば、目と手をうまく協応させて使いこなすことが苦手で、文字を書くといったことに困難がある場合もあります。図や形を覚えることが苦手なために、困難が起きている場合もあります。 ベースにある原因を突き止めることで、はじめて必要なトレーニングも見えてくるわけです。そうした理由で、当センターでは、診断名ではなく、もっとベースにある課題ごとにアセスメントを行い、お子さんにどんなトレーニングが必要かを見極めたうえで、一人一人に応じたプログラムを作成しています。オーダーメイドであるだけでなく、その都度、子どもさんの反応や進歩をみながら、プログラムの細やかな調整やステップアップを行っています。そうしたことが可能なのも、個別のトレーニングを基本にしているからできることなのです。 |
お子さんのご様子に、少し気になるところがあるものの、病院を受診するのは敷居が高く、また、予約がなかなかとれなかったり、家族だけでの相談では断られたりして、先延ばしにしてしまうということは、ありがちなことです。日々の仕事や家事に追われて、考えたくない現実から目を背けてしまうということもあるでしょう。 当センターでは、臨床発達心理士や臨床心理士の資格をもつ専門家が、お母さまお父さまの心配にじっくり耳を傾け、アドバイスをしてくれます。医師ではなく、カウンセリングの専門家でもある心理士ですので、いきなり診断を突きつけられたりすることもありませんし、お子様の課題として一緒に受け止め、お子さんの問題だけでなく、お母さまお父さまのお気持ちにも寄り添いながら、どのように対応すればよいのか、家庭でもできることをまずアドバイスしてくれます。そのうえで、発達検査や発達トレーニング(療育)が早めに必要と判断される場合には、ご家庭のご事情なども配慮しながら、一番いい方法を一緒に考えてくれます。 |
発達の問題を把握するうえで大切なのは、成育歴について、できるだけ正確で豊富な情報を得ることです。不注意や行動上の問題、コミュニケーションや言葉の問題などがあるとしても、それがいつごろからあったのかということが、とても重要なのです。それが発達の問題で起きている場合には、ごく幼い頃から、その兆候があったはずですし、何らかの心理的なダメージや別の疾患などで起きている場合には、以前はそんなことはなかったのに、ある時期から、兆候が始まっているはずです。 そうしたことを客観的な事実をもとに裏付けていくことが、不可欠なのです。そこで妊娠しする前後の話から、丁寧にお話をうかがい、成育歴や家族状況などについて、情報を集める作業を行います。これをインテーク面接といいます。 ただ、人間の記憶とはあいまいなもので、忘れていたり、勘違いしていたりということも少なくありません。そこで、母子手帳とか学校の通信簿(通知表)、お子さんの使っていたノート、日記帳などが役立ちますし、成長の記録を書いたノートや手帳などがあると、とても参考になります。相談やインテークを受けられる際には、これらのものをご持参ください。 |
当センターでは、発達にかかわる、ほとんどあらゆる検査を実施することができますが、通常は、クライエント様のお時間や費用を考慮し、検査自体は、一回または二回の来所で行えるように、検査バッテリー(検査の組み合わせのこと)を組んでおります。
ただ、インテーク面接と結果の説明に、それぞれ一回来所いただく必要があります。 検査を一回で済ませる場合には、幼児の場合には、新版K式を、児童の場合には、を中心に行います。二回を当てる場合には、それに加えて、幼児では、プレイセラピーをしながらお子さんの様子を実際に観察して、多動や自閉傾向、愛着の課題などを見極めます。児童では、コミュニケーションや文書作成、注意力、社会的認知、愛着などの検査を追加して、より細かく状態の把握を行います。 特に学習障害が疑われるケースでは、という専門検査を、自閉スペトクラム症が疑われるケースでは、やを追加して実施する場合もあります。 費用などについては、料金の欄でご確認いただくか、事務スタッフにお尋ねください。 |
せっかく行った検査を生かすためには、まずそこで明らかとなった特性や課題について、よく理解することです。そのため、当センターでは、通常、一回の面接を発達検査の説明に当てることにしています。特性や課題についてだけでなく、どのように対処すると有効か、アドバイスも行います。結果につきましては、アドバイスとともに、文書にまとめたものもお渡ししますので、ときどき見返していただき、対応を見直していただけると、有意義だと思います。 早いお子さんでは数か月のトレーニングで、見違えるような変化がみられる場合もありますし、遅いお子さんでも、一、二年のトレーニングで徐々に効果が表れてくることが多いと言えます。一、二年のスパンで、検査をすると、変化を確かめることができるでしょう。 |
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学習のつまずきや勉強嫌いの原因の背景には、しばしば学習目標イメージ障害が認められます。約7~10%もの児童に学習障がいがあるともいわれ、ただ勉強をさせるだけでは、成果が出ず、ますます勉強嫌いになり、劣等感を強めてしまいます。当センターでは、その子の課題をアセスメントし、その子の特性を踏まえたプログラムを、オーダーメイドで提供することで、改善を図ります。学習障がいが改善することで、自己肯定感を取り戻し、行動や情緒の問題が改善することも期待できます。 |
ニューロフィードバック・トレーニングは、今さまざまな症状の改善やパフォーマンスの向上に役立つことが注目されている脳機能訓練法です。前頭葉の働きをコントロールする力を高めたり、バランスを改善したりして、機能の改善をはかります。特に、注意力やワーキングメモリー、行動のコントロールを改善したり、緊張やストレスを緩和する効果が実証されています。 トレーニングの有効性が報告されている障がいや領域には、次のようなものがあります。
障害や改善目標によって違いがありますが、ニューロフィードバック・トレーニングは、毎週1回15分のトレーニングを継続的に9か月間行なうことで、約8割の人に効果があったと報告されています。ニューロフィードバック・トレーニングに加えて、必要な他のトレーニングやカウンセリングを組み合わせて行うことにより、楽しみながら続けられるだけでなく、より幅広く、高い効果が期待されます。 |
当センターの一つの大きな特色は、親御様のサポートを重視し、かかわり方や日々の生活での対応などについて相談やアドバイスを行い、ご家庭が「安全基地」となる手助けをすることです。必要により、ペアレント・トレーニングや愛着アプローチと呼ばれる手法も行います。 |
発達の課題をもつ場合、園や学校でさまざまな困難に直面しやすく、お子さんを守り、適切な支援を受けるためにも、園や学校の先生の理解が不可欠です。当センターでは、担当心理士が、学校の先生や職場の関係者の方とも面談し、特性について理解を深めたり、うまく接していくコツをお伝えしております。必要に応じて、医療機関とも連携をとっています。 診断書が必要な場合は、提携している岡田クリニックをご紹介いたします。同クリニックと緊密に連携しながら、お子様をサポートしてまいります。 |